Prologue: MUGEN NSXの挫折

198X年、HondaがNSXを開発している真っ只中、無限は秘かにNSXが市販化された後にNSXをベースとしたスペシャルカーを無限のバッチをつけたブランドで市販化する計画を秘め、そのための調査や準備をスタートさせた。クラフトマンシップによるスーパースポーツの先鋭化。そのためにエンジンの高出力化、内外装スペシャル、タイヤを含めた足回り設計、その他可能な限りのチューニングメニューが試された。中でもデザインはムーンクラフト社の由良達也氏が担当。風洞実験も駆使し、当時まだアフターマーケットはもとより市販車での採用も稀であったCFRPパーツも多様、意欲作であった。1992年、谷田部(JARI)におけるジャーナリスト向けのプロトタイプカーの試乗会も行われ市販間近かとも思われたが、一転市販化は見送られた。以降、コンプリートカーは、無限の夢として再挑戦の機会を探ることとなった。

Opportunity: CIVICでの試み

2005年 9月に発売となった8代目シビック(FD)。その翌月東京モーターショーHondaブースにハイブリッド車をベースとした「スポーツコンセプト」がひっそりとサプライズ出品された。あくまでHondaのコンセプトカーであるが、実はこの車両を製作したのは無限であった。この協業が、後にHondaと共同企画「TYPE R」をベースとしたコンプリートカーへのきっかけとなったのである。

その後、無限はコンプリートカー市販化も睨みながらシビックをベースに様々な可能性に挑んだ。2006年1月 無限はオートサロンへCIVIC Dominator コンセプトを出展。外観はHonda CIVIC HYBRID SPORTS コンセプトをベースに無限コンセプトとしてさらにスポーツに振った。エンジンはK20Aにスーパーチャージャーを実装。実際、ベンチ上で300PS近い性能を確認しており、一時期は過給機の可能性を検討していたのだが、当時のHondaの意向、つまりTYPE RはNAエンジンであるべきとの雰囲気で取りやめられた。

the Road to the Racing: Honda CIVIC MUGEN RR開発記

秘密裏にスタートした無限コンプリートカープロジェクト。無限にとってはじめてであるだけでなく、Hondaにとっても初めての協業であり、企画の方向性や様々な調整がトライ&エラーの連続であった。開発と管理推進の厳しさはもとより、それら調整事は非常に骨が折れるものであった。

発表当時のプレス発表資料から以下抜粋した、開発テーマです。

運動性能を評価するために、我々は実用的な研鑽の場として筑波サーキット(コース2000)を選びました。この挑戦において、足回りの仕立て(専用タイヤを含む)、エンジン出力の向上、車両の軽量化、エアロフォルムの最適化に注力しました。特にエアロパーツのデザインは、筑波でのコーナリングフォースを高めるために前後のバランスを最適化し、同時に空気抵抗(Cd)を抑えながらマイナスの揚力係数(CL)を追求しました。このようなアプローチにより、適度なダウンフォース(マイナスリフト)を実現し、タイヤRE070 RRスペック(縦剛性を強化したタイヤ)のグリップ力を引き出し、コーナリングスピードを向上させることができました。この手法はレーシングカー的なものであり、そのバランスを見つけるのに苦労しました。結果として、筑波でのタイムや性能評価は非常に良好でしたが、直線の長いサーキット(例えば鈴鹿や富士)ではコーナリング性能とトレードオフの関係になり、ノーマルのTYPE Rに迫られる内容となりました。しかし、「筑波ベスト」という目標を達成したと評価しています。なお、開発は山野哲也氏がテストドライバーを務めました。足回りのスペックが確定した後、乗り心地がノーマルのTYPE Rよりも良くなったことも法外な結果でしたが、タイヤの縦剛性を上げたことにより、スプリング/ダンパーとタイヤ自体のバネ乗数が低下し、路面からの入力に対する吸収力が向上した結果です。

Episode1: 牙を抜かれたMUGEN Si

無限は、日本でHonda CIVIC MUGEN RRの企画~開発を推進していた時期に、北米マーケットへの本格参入もを伺っていた。そこでMUGEN RRの企画をベースとしたアメリカ向けの限定車発売のチャンスを得ることに成功。但し、日本とは異なり、販売元は、American Honda Motor Co.,Inc.となった。その結果、法規の違いはもとより量産車同等の品質要件が必要となり、運動性能や動力性能を向上させるための大幅な開発メニューは投入できず、スタイリング主体の特装車となった。発売後、米国の多くのユーザーから(日本のMUGEN RRと比較され)大いに失望の声が寄せられたことは悔しい思いだった。

Episode2: 封印されたCompleteCar

Honda CIVIC MUGEN RRの開発と前後して、FITをベースとした次のコンプリートカーの企画、開発に着手していた。(仮称)F154scです。1.5L+スーパーチャージャーを実装、動力性能や運動性能向上のテストも行われ、一部は型設計も完了(外装部品)しており、タイミングを図っていた。しかし、リーマンショックを契機に中止、お蔵入りとなりました。